法律で遊ぼうシリーズ「大岡裁き」
法律で遊ぼう!
登場人物その他
・大岡越前守
江戸時代の名奉行。現代法を用いて裁きを行う。
・徳川吉宗
江戸幕府八代将軍。現代法の元でも最高権力者であることに変わりはない。
裁決1 「盗難」
ワー ワー
大岡「騒がしい、何事じゃ」
足軽「町民どもが何やら揉めているようで」
大岡「む。お主ら、何故に争っておるのだ」
町民「奉行様!いやさあっしは悪くないんでさ。この方が言いがかりを」
商人「何を言うか!私はただ盗まれた物を返せと言っておるだけだ!」
大岡「盗み?」
町民「いやいや奉行様、勘違いしねえでおくれなせ。この花瓶はあっしが行商人から高値で買った物、それ以前の経緯なんぞあっしには知らぬ存ぜぬことで」
商人「ぬしが存じてなかろうとこちらには関係の無いこと。盗まれた物を回収する権利はこちらにあるのだ」
大岡「ふむ。商人よ、お主が花瓶を盗まれたのはいつじゃ?」
商人「はあ。確か一年程前のことで」
大岡「なるほど。では奉行の名において裁決を下す。商人の返還請求を認め、無償で返還することを命ずる!」
町民「な・・・そんなご無体な、せめて買った分の金額を・・・」
大岡「お主がその花瓶を公の市場で買うか競売で競り下ろしておればな・・・」
町人「ううっ・・・」
商人「流石は奉行様。名判決ですな」
足軽「中々出来る事ではございませぬ」
大岡「これにて、一件落着!」
町民「」
裁決2 「第三者」
豪商「ククク・・・貴方様も人がお悪い・・・」
旗本「ふっ、何を言う。私はただお主から土地を買おうとしているだけだぞ?
・・・まあ偶然先客がおり、その先客より私が早く登記を備えただけのこと」
豪商「ええええ分かっておりますとも。登記を備えた貴方様が実際に土地を手に入れるという事も・・・」
???「待てぃ!」
旗本「む、何奴!」
???「拙者は江戸町奉行、大岡越前と申す者。今の話、少しまたれよ!」
旗本「大岡?ふん、そういえば上様に気に入られて出世した下級士族がそのような名前であったわ。奉行ごときが天下の旗本に何たる無礼」
大岡「貴公が天下の旗本であろうと天下の法を曲げてよい道理はありますまい」
豪商「フフ・・・奉行様、別に我らは天下の法を犯すようなことはしておりませぬ」
旗本「うむ。「物権変動は登記を備えなければ第三者に対抗することは出来ない」、民法の常識である。つまり!登記を先に備えなかった者が保護されない、それだけのことである」
大岡「確かにその通りでござる・・・貴公が第三者であるならば」
旗本「なっ!?」
大岡「信義に背くが如き行為を「背信的悪意」といい、その者が登記をしたところで保護はされぬ・・・そう、民法177条の「第三者」の範囲に含まれなくなるからだ!」
旗本「っ!・・・し、しかしそのような条文は無かったはず!」
大岡「そう、確かに条文には第三者の定義は「正当な利益を有する者」としか書いておらぬ・・・しかし判例を見れば明文化されておらずともそのような解釈なのは明らかである!」
豪商「・・・そっ、その通りでございまする!流石は奉行様!」
旗本「!?」
大岡「では奉行の名において判決を下す。その取引を無効とし、土地の所有権は先に取引を行った何某氏にあるものとする!」
豪商「ははーっ」
旗本「貴様・・・裏切りおって・・・」
大岡「これにて、一件落着!」
吉宗「最近土地の売買が滞りなく進むのぅ」
大岡「結構な事でございます」
ジャーン!
完。