歴史系ジョークブログ(仮)

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尾張国郡司百姓等解「住民訴訟」

尾張国郡司百姓等解  「住民訴訟

 

登場人物

国司「藤原元命」

尾張国の「国司」(普通地方公共団体の長に相当)。強欲さでは日本史有数。

・郡司

本来は国司の一つ下の役職。国司に権限を殆ど取られている。

・田堵

有力農民の名称。農民ズの代表格。

 ・勘解由使

律令制度において地方行政の監査を行っていた役職。監査請求時の監査委員に相当。

 

ーとある民家ー

田堵「郡司殿!このままあの極悪外道の国司をのさぼらせておいていいのでしょうかっ!我々は我慢の限界です!」

農民ズ「(うんうんと頷く)」

田堵「ただでさえ税が重いというのにあの国司の私欲を満たすために我らがどれだけ苦労しているか・・・」

農民ズ「(うんうんと頷く)」

田堵「郡司殿!今こそ国司の罷免を中央政府に訴えてくだされ!」

郡司「うむ。しかし皆の衆、少し冷静になりたまえ。あの狡猾な国司殿の事だ、やみくもに非道を訴えてももみ消されるだろう」

農民ズ「(うんうんと頷く)」

田堵「さすればどうすれば?」

郡司「知れたこと。正式に法の手続きに則り解任させるのだ!」

農民ズ「(わあっと歓声を上げる)」

郡司「・・・と言いたいところだが、国司の解任にはかなり困難な条件が必要である。よって、「住民監査請求」を行う」

田堵「なるほど!確か住民監査請求ならばその地方に住む住民が一人以上提起すれば行えるのでしたな」

郡司「その通り。まあこの方法では解任は望めないが、請求の主たる「違法な公金の支出」とはかの国司殿の為にあるような言葉だ」

田堵「では早速あの外道国司に請求を・・・」

農民ズ「(今にも走り出そうとしている)」

郡司「まてまて、そうあわてるでない。監査請求を行うのは監視役である「勘解由使(監査委員)」に対してだ」

農民ズ「(慌てて戻ってくる)」

田堵「確かに国司の悪行を国司に「監査」しろというのはおかしな話ですな」

郡司「公金関係以外の事ならば「事務監査請求」という物もあるが・・・この場合はよかろう。あともう一つ。監査請求を行うためには勘解由使殿に「違法の証拠の提出」及び「陳述」をしなくてはならない」

田堵「ああそれならば大丈夫です。本来朝廷に提出する予定だった文書があります。題して「尾張国郡司百姓等解」」

郡司「中々良い命名だな。後世まで残りそうな・・・まあそれはともかく。証拠はこれで十分だろう。陳述は私が請け負うから後は監査の結果を待つのみだ」

農民ズ「(歓声を上げる)」

 

ー数日後、国司の館ー

元命「何ィ?監査ですと?」

勘解由使「はい。住民より公金の支出に関しての監査請求がありました。公金の支出を調査させてもらいます」

元命「住民どもめが、税を倍増してやる・・・」

勘解由使「税収と都に収める税とを提示してください。これは正式な要求ですぞ」

元命「まあまあ勘解由使殿。貴公の役目はよく分かっておるよ・・・ここで一つ・・・貴公に「お土産」があるのだが」

勘解由使「・・・ほ、ほほう」

元命「いやいや、別に他意はございませぬよ。まあただ貴公にはご理解いただきたいのですよ。「こういったこと」で公金を使う場合もある・・・と」

勘解由使「分かりました。確かに来客に対し「お土産」を渡すのは国司としての礼節でありなんらおかしいことはございませぬ・・・よく分かりました」

 

ー数日後、郡司の館ー

郡司「皆の衆、今日ここに集まってもらったのは他でもない。監査請求の結果が来たのだ」

田堵「おおっ。してどのような」

郡司「・・・違法な公金の支出の事実は認められない。よって請求に理由が無いことにより今回の訴訟は棄却された」

農民ズ「(唖然とする)」

田堵「何を馬鹿な!では我々の血税は何処に消えているというんです!」

郡司「私も最初に報告を受けた時は驚いた・・・が。国司の屋敷に努める私の親類がこっそりと真実を教えてくれた。・・・勘解由使は買収されている」

田堵「!?」

農民ズ「(憤りの声を上げる)」

郡司「皆の怒りも尤もだ・・・しかしここで暴動だのを起こしても簡単に鎮圧されてしまう。という事で次の手だ。「住民訴訟」を行う!」

農民ズ「(わあっと声を上げる)」

田堵「「住民訴訟」・・・監査請求に係る違法な行為に対して行う訴訟・・・その手がありましたな!」

郡司「今回は「違法が無かった」という報告がされた以上、「国司の措置に関する不服」や「勘解由使が監査を行わない不服」は請求事由には使えない。よって「勘解由使の監査に対する不服」を請求事由として住民訴訟を行う」

田堵「しかし郡司殿、私には一つ懸念事項が」

郡司「何だね?」

田堵「勘解由使さえ買収せしめたあの国司の事です。今回の訴訟ももみ消されるのでは・・・」

農民ズ「(うんうんと頷く)」

郡司「その心配はない。何故ならこれは「訴訟」である」

田堵「・・・つまり?」

郡司「訴訟は「裁判所」に対して行うからだ」

 

ー数日後、国司の館ー

使用人「元命様、来客です」

元命「来客ゥ?まさかこの前の監査請求の続きじゃ無いだろうな・・・まあいい、通せ」

?「やあ元命殿、邪魔するぜ」

元命「!!!・・・あ、アンタは・・・源頼光!?確か都で藤原何某ってのに仕えてるアンタがなぜ・・・」

頼光「「道長様」だ。次言ったら殺すぜ。俺が尾張くんだりまで来たのは公務のためだ。おいっ!」

勘解由使「・・・」

元命「勘解由使殿!?」

頼光「「独立した権威を持つ中正的な機関」・・・そう、俺たち「武士」が「裁判所」役なのさ」

元命「そ、そんな、無理があるだろう!?」

頼光「いやあ、案外そうでもないぜ?裁判所に求められるのは公平な視点、公平な評価、それから・・・」

元命「そ、それから・・・?」

頼光「下した判決を実行させる権限だよ!!オラァ!とっとと認めな!「私が間違っていました」ってよ!こちとら暇じゃねえんだ!!!」

元命「わ、わかりました!私が全て間違っておりました!」

頼光「テメエじゃねえよボケ!勘解由使殿よ、アンタが違法な監査をしたんだろうが!!ああん!?」

勘解由使「は、はいっ!右に同じであります!間違いを認めまする!」

頼光「ふん、それでいい。じゃあ俺は帰るからな」

元命「へ?具体的に何かをなさらないんで?」

頼光「俺らが今回受けた請求は「事実の違法確認の請求」だ。先の監査請求が違法な物ってことさえ確認できれば俺らの仕事は終いだ。・・・・・・最も、例え「損害賠償や不当利益の返還請求」(四号請求)を受けたとしてもお前に直接言えるわけじゃないがな」

元命「そ、そうなんですか・・・」

頼信「所詮は地方の国司だな。そんな塩梅なら都の武士たちの方がよっぽど詳しいぞ。ま、俺に係ることじゃないがな。あばよ」

元命「・・・  ・・・  ・・・  はあ、助かった。しかし良いことを聞いたわい。住民請求の制度はどれだけでも誤魔化しがきく・・・!!」

勘解由使「(まだ懲りてないのかこの人・・・ある意味凄まじいな)」

 

尾張国・農村の広場ー


田堵「聞け!皆の衆!我々は最早我慢の限界である!」
農民ズ「(わあっと歓声を上げる)」
田堵「住民監査請求並びに住民訴訟にてかの国司の違法が立証されたのにも関わらず・・・体制は何も変わらない!依然旧態のままである!」
農民ズ「(わあっと歓声を上げる)」
田堵「かくなる上は最後の手段だ!住民の三分の一以上の連署を集め、中央(選挙管理委員会)に向けて「国司の解職請求」を送るのだ!!」
農民ズ「(わあっと歓声を上げる)」

平安京道長の館ー
道長「解職請求・・・ほほう。三分の一以上の連署が集まるというのは余程だぞえ」
頼光「無理もありますまい。私もかの国の国司に会いましたがいかにもな感じでして」
道長「投票に付したとして・・・過半数の同意は集まるだろうのう」
頼光「ほぼ確実かと」
道長「よしよし、早速この請求を公表し、尾張国で解散諾否の選挙を行うのじゃ!・・・今地方で問題だのが起こると面倒な事になるでな・・・」
頼光「はっ」

ー988年・尾張国国司・藤原元命は解任されたー