政治系寓話「アリとキリギリス(左)」
ただの皮肉な小話になってしまった気がする。
イソップ政治寓話劇場
アリとキリギリス(左)
とある夏の盛りのこと、アリさんがせっせと食べ物を巣へと運んでいると、遊んでいるキリギリスさんに出会いました。
「キリギリスさん、そんなに毎日遊んでいていいんですか?いつか食べ物が無くなった時に困りますよ」
「何を言っているんだいアリさん。食べ物ならば至る所にあるじゃないか。無くなった時はその時考えるよ」
そう、確かにその時は遊んでばかりいるキリギリスさんも困らない程に食べ物が一杯ありました。あまりに食べ物が多すぎるので腐らせてしまうくらいに。しかしそんな日がいつまでも続くわけがありません。
季節は巡って冬の夜、アリさんの巣に客が訪れました。それはキリギリスさんです。
「アリさん、僕はもう三日も食べ物を食べていないんだ。どうか食べ物を恵んでおくれ」
「駄目だよ。だから私は注意を促したじゃないですか、自業自得ですよ」
すげなく断られたキリギリスさんはその事を村の長老であるクモさんに愚痴りに行きました。それを聞いたクモさんはおお怒り。
「なんて非道な。目の前で困っている虫を見捨てるなんて、虫の風上にも置けない」
怒り狂ったクモさんはアリさんの巣に直談判。アリさんを徹底的に罵ります。なにせクモさんは正義の為にやっているので迫力も段違い。震えあがったアリさんはキリギリスさんに食料を分ける事を約束します。
その結果キリギリスさんは無事冬を越す事が出来ました。そして夏がやってくると、この反省を顧みて真面目に働くキリギリスさんの姿が。それを知ったクモさんも大喜びです。ひとまずめでたしめでたし。
しかし一匹だけめでたくない虫がいました。アリさんです。キリギリスさんが真面目に働くようになった次の年の冬、アリさんの巣に客が訪れました。それはカマキリさんです。
「アリさん、聞きましたよ。困っているキリギリスさんに食べ物を分けてあげたとか。僕にも分けて欲しいなあ」
「そんな、困りますよ」
「何てことをいうんだい、キリギリスさんは良くて僕は駄目なんて不平等じゃないか」
アリさんは必死に断りました。しかしカマキリさんの「平等」という言葉に抗いきれず、ついに食べ物を渡します。
それを聞いてやってきたバッタさんにも、ナナフシさんにも、ゴキブリさんにも食べ物を渡しました。彼らは簡単に食べ物を分けてもらうことが出来ました。最早アリさん自身にも、自分の行動が作り上げた先例を撤回する事が出来なくなっていたのです。
アリさんは必死に働きます。食べ物が簡単に手に入る夏だけではなく、寒い冬の日にも働きます。そうしないと自分の食べるものが無くなってしまうからです。
そんな生活が何年か続いたとある冬の日の事。アリさんは気づいてしまいます。自分に食べ物を求めてやってくる虫たちの一群に、真面目になったはずのカマキリさんが混じっていたのを。
それからアリさんは働くのを止めました。しかし別に飢え死にをしたわけではありません。アリさんは知っていたのです。となりの村のハチさんが、食べ物を一杯手に入れていることを。