新選組!!「国家賠償法」
登場人物
・松平容保
・土方歳三
新選組の副長。一見冷静だが本質は野武士。新選組を第一に考えている。
・芦沢鴨
新選組の局長。豪胆だが見境の無い乱暴者。
「芦沢鴨に腕を切られたっ!」
「私は家財を奪われた!」
「拙者は家を焼かれた・・・!!」
「「「松平様!!」」」
ー
容保「・・・何か、申し開きはあるかね?」
鴨「ハハハ、長州を匿っている恐れがあるんです、仕方ないでしょう。被害の数の倍する手柄を立ててるんだ。このくらいは見逃してくださいよ」
容保「限度があるだろう!いいか、今の貴様らは一私人ではない!会津藩主預かり「新選組」の一員、つまり「公人」である!」
鴨「へへえ、公人だか高麗人だが知りませんがね。要は自分のケツは自分で拭けってえことでしょう?」
容保「それが出来るのならばそうさせておるわ!貴様らが新選組の活動の一環として不祥事を起こす限り、責任は我ら国がとらなければいけないのだ!」
鴨「なるほど。天下の侍って言っても面倒くさいもんですな」
容保「問題を起こさなければいい話だろうが!・・・いや、貴様らにそういっても無駄であろう。よし、一つだけ聞いてくれ」
鴨「何でしょう」
容保「押し入りも放火も新選組の業務の外でやれ。そうすれば「公権力の行使」ではないから国家賠償法ではなく民事訴訟法で裁かれることになる。」
鴨「ひでえなあ。まるで俺らが好き好んで町衆を虐めているみてえじゃねえか」
容保「違うのか?まあそうだとしても重過失である事には違いあるまい。もし賠償責任追及を受けたら貴様に求償してくれるからな!」
鴨「へいへい、分かりましたよ」
「火事だっ!下手人は誰だあっ!」
「あ、あれは新選組!」
「間違いない、新選組だ!」
ー
容保「・・・何か、申し開きはあるかね?」
歳三「新選組も人に噂されるようになって誇り高いですな」
容保「・・・悪名をどれだけ積もうと誇りにはならないぞ」
歳三「我らが目指すは聖者に非ず、血で血を洗う鬼の集団でござる」
容保「・・・はあ。貴様は冷静に見えてその実芦沢なんぞよりよほど狂っておるわい」
歳三「世が狂っておるのです。狂った世を変える事が出来るのは狂った人間のみ」
容保「・・・もういい、頭が痛くなってきた。本題はな、新選組に家を燃やされたって訴えが来ておるのだ」
歳三「ははあ。で、新選組の誰がやらかしたので?」
容保「それは分らぬらしいが」
歳三「じゃあ責任は追及出来ませんな」
容保「・・・国家賠償法に基づく損害賠償請求はな、加害個人の特定を必ずしも必要としないのだ」
歳三「なるほど。天下の侍と言っても・・・」
容保「「面倒」などとは言わせぬぞ。全く、貴様らなんぞをお抱えにしたのが間違いだったわい」
歳三「ハハハ。ではいっそのこと何もしないでおきましょうか。全く民衆というのは頼るだけ頼って自分らが受けた恩恵には気づかない」
容保「「不作為」も国家賠償法の対象だぞ」
歳三「つくづく雁字搦めだなァ」
「大雨だ!皆避難しろ!」
「ダメだ!道が陥没している!」
「馬鹿な!?いくら大雨だと言っても・・・」
「そ、そういえばこの前、新選組がこの辺りに貯水池を作ると言っていた!」
「そうか!その貯水池が溢れて・・・」
「雨が降ったぐらいで氾濫する貯水池など瑕疵があるとしか思えぬ!」
「「「「「新選組め・・・!」」」」」
鴨「いくら何でもよぉ、それは俺らのせいじゃないでしょう」
容保「黙れっ!貴様らが作った営造物に瑕疵があり、それにより他人に被害が発生したことは事実だ!この損害賠償、どこからも出す金がないぞ!」
鴨「俺たちだってよ、別に適当に作った訳じゃねえぜ?」
容保「公の造営物の設置管理の瑕疵には「無過失責任」が適用される。貴様らに過失があろうとなかろうと請求は免れんのだ」
鴨「・・・」
容保「今の会津藩の財政状況ではこのような損害賠償・・・芦沢、貴様らにも責任を取って貰うからな!」
鴨「そうしたいのは山々なんですが・・・確か国家賠償法ってのは故意か重過失が無い限り個人へ求償は出来なんでしょう」
容保「公権力の行使に基づく損害賠償請求・・・第一条ではな。公の造営物の設置管理の瑕疵に基づく損害賠償請求・・・第二条では他に責任を負う者に対してへの求償を認めている」
鴨「なるほど?分かりましたよ。長州なんかより余程恐ろしいのは民衆だってね」
容保「国元に帰ろうかの・・・」